研究内容の
紹介
水圏生態学研究室では,琵琶湖の動・植物プランクトンの生活史や個体群動態に関する研究から,湖沼の栄養塩バランスがプランクトンの多様性に与える影響,メタン発酵処理廃液を用いた微細藻類大量培養技術の確立まで,多岐にわたる研究課題について研究を行っています。
ミジンコを用いた込み合い応答に関する研究
オオミジンコをモデル生物として,個体数密度が生物に与えるストレスとそれに対する生物の応答機構を調べています。現在はこの現象に関わる遺伝子発現について解析中です。
水田排水が琵琶湖沖帯の生物生産に与える影響の評価
水田排水,いわゆる「代かき水」が琵琶湖沖帯の生物生産に与える影響について明らかにしました。
琵琶湖における動物プランクトン生物量の長期変動解析
滋賀県水産試験場には1960年代から動物プランクトンのホルマリン固定試料が保存されています。私たちは,これを分析し過去50年間の動物プランクトン生物量の長期変動を明らかにしました。動物プランクトン生物量は水温や餌指標となる全リン量には影響されず,主な捕食者であるコアユに最も大きく影響されていることがわかりました。さらに,最も優占する種であるヤマトヒゲナガケンミジンコについては,それが摂取している潜在的な餌量,成長速度,そして生産量におよそ10年の周期性が存在すること,そしてこれが「北極振動」と呼ばれる北半球で見られる大きな気象現象の周期性とよく一致していることを発見しました。
水田における動物プランクトン2次生産量の推定
滋賀県では,水田を用いた琵琶湖固有魚種の種苗生産に関する研究を進めています。湛水された水田には動物プランクトンが繁殖し,これが稚魚の良い餌となります。私たちは稚魚の成長を支える動物プランクトンの生産力を測定しました。
気象イベントが琵琶湖の生物生産に与える影響
琵琶湖の植物プランクトン生産が風力や風向,降水量といった気象現象,そしてそれらによって生じる湖水の流動現象とどのような関係にあるのか確かめるための研究を行いました。湖沿岸域に堆積した有機物は分解されて間隙水中に蓄積されますが,湖水の流動がこの栄養塩を沖へ運ぶことによって植物プランクトン生産が促進される可能性があります。
淡水真珠養殖復興事業
草津市にある柳平湖は琵琶湖内湖の一つでびわパール発祥の地です。内湖の環境悪化や安い外国産淡水真珠の流通によって,びわパールの生産は激減しました。草津市は地域振興の一環として真珠養殖の復興のための事業を始めました。私たちは真珠貝の成長と環境モニタリングを受託しました。同時に,真珠貝による環境浄化機能の検証も行い,真珠貝による水質浄化能力はそれほど高くはなく,そのため貝の餌となる植物プランクトンの供給不足になることもないことがわかりました。
メタン発酵消化液を用いた微細藻類大量培養技術の確立
メタン発酵処理は有機廃棄物を安価に処理する最も有用な方法です。しかし,栄養塩を大量に含む廃液が出てしまうのが欠点でした。私たちはこの問題点を解消するために,廃液中に含まれるリンや窒素を微細藻類(植物プランクトン)に吸収させることでバイオマスに転換する効率的な方法を開発しています。現在は,エチオピアのタナ湖に過剰繁茂するホテイアオイを持続的に刈り取り,これをメタン発酵と微細藻培養・野菜栽培で利活用することで,タナ湖の環境改善と現地の人の栄養改善に役立てるための国際プロジェクトを推進中です。
琵琶湖内湖における生物多様性と栄養塩バランスの関連
湖沼に生息する生物の多様性は何によって決まっているでしょう。その要因の一つは栄養塩バランスかもしれません。私たちは流域の土地利用が異なるいくつかの内湖を対象に栄養塩バランスとプランクトンの多様性の関係を探っています。
動物プランクトンと共生する細菌叢の研究
私たちの腸内には様々な微生物が共生しており,それらの活動が私たちの健康に大きく関わっていることが近年になって明らかになってきました。動物プランクトンは1 mmにみたない微小な生き物ですが,これらにも様々な細菌類が共生していることがわかってきました。しかし,それはまだまだ未知の研究分野です。私たちは琵琶湖に棲息するミジンコに共生している細菌叢を調べています。
琵琶湖生態系に与えるツボカビの機能的役割
ツボカビは,遊走子を持つ真菌類の仲間です。これらは様々な寄主に寄生することで環境中に遊走子をまき散らしています。琵琶湖には植物プランクトンに寄生するツボカビがおり,通常は大きすぎて動物プランクトンが利用できない大型の植物プランクトンに寄生して,それを食べて遊走子を放出します。この遊走子は動物プランクトンの餌になるので,間接的に大型植物プランクトンが利用されることとなります。これは,まだよく知られていない食物連鎖の一つであり,私たちは琵琶湖でこの詳細について研究しているところです。