研究内容の
紹介
環境や人の健康に対して,現れた影響の後処理の技術を開発するのではなく,影響の出どころ(発生源)がどこにあるのかを考え,影響の大きさを評価して問題の根源への対策を提案するのが,環境・健康影響評価研究室のメインテーマです。問題のなかには人の見方を変えたり,新たな見方を提示することで解決に導けるものがあると考えられます。そのような,技術に並ぶ“視点”を自然現象の観察から見出して,社会に提示していきたいと考えています。
野外調査データにもとづく「環境ホルモン」の影響のとらえ方の再構築
人間活動による「環境ホルモン(内分泌かく乱物質)汚染」が指摘され,社会問題となりました。しかし,本研究室の野外における研究で,水環境中の植物プランクトンが女性ホルモン(エストロゲン)様物質を産生し,魚類に影響をおよぼしていることがわかってきて,内分泌かく乱作用は自然現象の一部に過ぎないのではないかと考えられました。現在,この自然起源ホルモン様物質を分離,解析して,その存在を実証しようと取り組んでいます。そして,未知の環境汚染問題であった事象を,既知の,一定程度受け入れられる影響としてとらえ直すことにつなげるのを目標としています。
人の身体の動きを阻害している要因を明らかにするための研究
人が等しく重力を受けて体重を脚で支え立っているのに,脚の筋肉の発達には個人差が見られます。一方,脊椎動物の脚の数は少なく,重さを支える上で骨格を持つことによる合理的な仕組み(「釣り合い」が成り立つ仕組み)が存在する可能性があります。そこで,筋肉が未発達の人は「立つ姿勢において筋肉を使っていない」と仮定すると,そのような姿勢を取らず筋肉をより使う人では脚の筋肉が発達すると考えられます。またその積み重ねの結果,柔軟性の低下を生じ,ひいては腰痛などの体の痛みの発症へと関連していくことが考えられます。現在,この仮説の検証に向けて計測調査やアンケート調査に取り組んでいます。
野菜がもつ潜在的な毒性(変異原性)の程度から食の安全をとらえ直すための研究
健康に良いとされる野菜が天然毒性をもっているという一見矛盾した事実をデータとして視覚化して示すことは,広い視野の食の安全観を一般の人に持ってもらう手がかりになると考えられます。本研究室では,毒性のなかでも特に懸念されている発がん性(変異原性)について,栽培野菜や,伝統的に食用されてきた山菜,野草などを対象に調べています。これまでの研究で,栽培野菜の変異原性は,人工防除(野菜の自己防衛の手助け)の程度とは関連せず,また野草よりも高い傾向にあることがわかってきました。これには変異原性の,即効性が無く,人が知覚できない(そのため,品種改良の過程で低減できない)毒性という性質が関係していると考えられ,いまでは,変異原性という「遺伝子に変異を起こさせる作用」が植物(あるいは動物)に果たしてきた役割の解明も視野に入れて研究しています。