研究内容の
紹介
「微生物ってなんでしょう?」と聞かれたらみなさんはどのような生物を思い浮かべますか?実はとても大きなくくりの言葉で,「肉眼では見えない顕微鏡等の拡大器具を観察に必要とする生物」のことです。海や湖といった水圏には,細菌やプランクトンなどの目に見えない小さな微生物が多数生息しています。これらの微生物なくしては,地球上の環境は成り立ちません。現在の地球環境問題の多くは,微生物を介した物質サイクルがうまくいってないことや,微生物機能の劣化によって生じています。このような微生物のもつ能力や,生態系における役割について,分子生物学的な手法を用いた研究を行っています。また,近年は微生物に限らず,様々な水圏生物によって引き起こされる環境問題の現状把握と,それらの問題に対する解決法に関する研究も行っています。現在の研究テーマは,下記のようになっています。
有毒・有害プランクトンの発生のグローバル化の検証
植物プランクトンの中には,猛毒を生産する「有毒プランクトン」や,赤潮を形成する「有害プランクトン」が存在します。人間活動によりこれらの生息域の拡大が懸念されています。現在,分子生物学的手法を用いて,熱帯〜温帯にかけての有毒有害プランクトンの発生状況の把握と,それらが環境に及ぼす影響を調べています。
琵琶湖におけるアオコ発生に関する水田の寄与の検証
琵琶湖周辺の多くの水田には,大量の肥料が散布されます。そのため,水田水が流れ出す下流域に栄養塩が流出し,水田は生態系に影響を及ぼすと考えられています。そのような影響のみならず,水田が植物プランクトンの培養地として機能し,下流域に多くの個体群を流出しているのではないかと考え,現在検証実験を行っています。
超深海底堆積物における窒素循環に関与する細菌の多様性
サンプリングの困難さから,これまで超深海底における微生物の動態はごく一部しか明らかになっていませんでした。現在,沖縄トラフにおける細菌,古細菌およびウィルスを遺伝子レベルで定量し,超深海底における微生物の環境への寄与を調べています。
外来シジミの琵琶湖への侵入と固有種セタシジミへの影響の検証
日本には,古来3種のシジミ(マシジミ,ヤマトシジミ,セタシジミ)が存在していました。近年,外来シジミの琵琶湖への侵入・定着が問題視されています。本研究室では,琵琶湖固有種セタシジミの保全を目的として,外来シジミの琵琶湖への侵入状況を遺伝マーカーにより明らかとするとともに,セタシジミに与える影響を検証しています。
琵琶湖沖帯深層における底生魚の食性に関する基礎的研究
琵琶湖固有種のイサザは,昼間は琵琶湖の非常に深いところ(水深90 m)で暮らしています。これまで,イサザの食性は胃の内容物の顕微鏡観察により明らかにされてきました。しかしながら,検鏡の場合,消化されやすいものが検出されず,未だ食性の全容は明らかになっていません。現在,琵琶湖沖帯のイサザやヨコエビ等の消化管のメタゲノム解析により,深層の生物がどのようなものを食べているのかを明らかにしています。