滋賀県立大学環境科学部 環境生態学科 Department of Ecosystem Studies

MENU

STAFF 教員

水圏化学研究室

  • 丸尾 雅啓
  • 教授丸尾 雅啓MARUO, Masahiro

    専門分野

    水圏化学,分析化学

    キーワード

    琵琶湖,水質,リン,鉄,金属と有機物の関係

    研究室

    B3棟(環境生態学科棟)204室

    研究業績

    滋賀県立大学研究者総覧へ


最終学歴

京都大学大学院理学研究科化学専攻博士後期課程修了(1994年3月)

学位

博士(理学)(京都大学)

職歴

  • 日本学術振興会特別研究員PD:京都大学大学院人間・環境学研究科(1994年4月~1995年3月)
  • 滋賀県立大学環境科学部助手(1995年4月~2005年8月)
  • 滋賀県立大学環境科学部講師(2005年9月~2007年10月)
  • 滋賀県立大学環境科学部准教授(2007年11月~2016年3月)
  • 滋賀県立大学環境科学部教授(2016年4月~)

所属学会

  • 日本陸水学会
  • 日本分析化学会
  • 日本地球化学会
  • 日本腐植物質学会
  • Association for the Sciences of Limnology and Oceanography

研究内容の
紹介

水圏化学研究室では,琵琶湖をはじめとする湖沼,河川,海洋など,様々な水域を対象として,元素の化学形態を知る,またはその手法開発を行っています。人間同士もそうですが,水中の化学物質は,環境の中でお互いに影響しあっています。人も一人では生きてゆけないのと同じで,化学物質も互いに作用しながらその性格,役割を変えてゆきます。たとえば金属は主に陽イオンとして水に溶けていますが,水中の有機物と結合し,錯体といわれる化合物をつくると陰イオンになり,その性質や作用がまったく変わってしまいます。この相互作用が環境中の物質の動きや生物の繁殖に影響を与えることがあります。現在は主として以下の研究を行っています。

水中の栄養塩(リン・窒素・鉄など)の正確な濃度を知るための分析法開発

琵琶湖や海など水中の生物,とくに植物プランクトンは水に溶けている栄養素を吸収して成長します。そのため人間の測定限界を下回るほどになります。それでも生物は取込みの限界まで摂取するか,あるいは摂取できる形態に化合物を変化させて摂取しています(すごい!)。リンの場合などは,様々なリン化合物から酵素反応によってリン酸を分離して摂取しています。琵琶湖はリン制限(植物の必須栄養素のうち窒素が十分にあって,リンが不足しているために増殖が抑えられている)にあるため,リンの濃度,リン酸の濃度が極端に低いのですが,これを正確に捉えるための手法を模索し,現在は10–9 mol/Lレベルのリン酸イオンが測定可能になりました。これは今までの測定限界(1×10–8~5×10–8 mol/L)を10倍以上も下回る値です。琵琶湖の水に溶けているリン酸イオンを測ったところ,実際に1×10–9 mol/L程度の存在量になる時期があることがわかりました。このような極低濃度のリン酸イオン濃度変化も,植物プランクトン種の遷移に影響しているのかもしれないと考えています。
また,海洋において,リン酸の代わりに使用されているとされているホスホン酸類(リン(+III))のうち,好気的メタン生産に関与するとして特に注目されているメチルホスホン酸の分析法開発と,琵琶湖,西湖(富士五湖の一つ)などでの実測を行っています。いずれ外洋の海水にも適用するための手法改良を行っています。
このほか,10–8~10–10 mol/Lレベルのアンモニアや硝酸イオンの分析を手がけてきました。

山梨県の西湖:絶滅種とされた「クニマス」が再発見されたことで有名になりました。

琵琶湖沿岸の集落に自噴する湧水の水質(電気伝導度)を測定しているようす。

琵琶湖(高島市沖)から海津大崎(中央左),葛籠尾崎と竹生島(中央右)をのぞむ。

溶存態金属の存在形態:化学スペシエーションの把握

水中の金属は,化学の教科書に載っているように裸のイオンで存在しているわけではありません。天然の水環境の中には様々な物質が共存しているので,それらと結合したり,引き寄せあったりしながら存在しています。それらを考えながら実際の存在形態を考え,環境への影響を考えてゆきます。鉄であれば,酸化数別(Fe(II),Fe(III))や,有機化合物との結合(錯生成)を考えます。銅であれば,最も有機物の影響が大きい元素であり,ほとんど全てが有機物と結合した状態で水の中に溶けていると考えられています。なぜそうなるのか?その形態は生態系の中でどういう意味を持つのかを考えてゆきます。

富栄養化で有名だった「諏訪湖」です。その場で濾過した水を石英瓶に詰め,光照射して有機物が紫外線でどのくらい分解されるかを実験している様子です。

水圏化学研究室では,最終的に琵琶湖が湖としてどういう位置付けにあり,これからどのように接してゆくのがいいのかを研究を行いながら考えてゆきたいと思います。琵琶湖は多くの人間が暮らす滋賀県に位置しその影響を受けながら変化してゆきます。一方で同様の環境条件を持ちながら人為的影響をほとんど受けない湖があります。水深や面積,周辺人口など環境条件が異なるために琵琶湖以上に汚濁がすすんでしまった湖もあります。外洋・沿岸などの海域,汽水湖なども含め,琵琶湖を中心とした湖の本来の状態について考えるための比較研究も行っています。個人的には,琵琶湖の水は1970~80年代に比べてきれいになったと感じていますが,一方でアユの不漁,オオカナダモやブルーギルといった外来生物の影響,水質の変化など,新たに様々な問題を抱えています。なぜそのようなことが起きるのか,そして水質はそれらの何を映す鏡になっているのか?考え,実際に調べ,事実を確かめながら,答えを見つけ,問題解決のためにできることを探ってゆきたいと思います。一緒に考え,調べてくれる方をお待ちしています。

南極海の氷は「きれい」なだけではありません。黄色く見えているのはおそらく「アイスアルジー:Ice Algae」です。生物はたくましい!