研究内容の
紹介
陸水生物学研究室では,川や湖にすむ貝類と寄生虫の生態に関する研究を主に行っています。分類学や貝と寄生虫の関係の進化といった基礎研究に加えて,外来貝類・外来寄生虫の影響調査やそれらのコントロールのような応用研究も行っています。
陸水域における寄生虫の分類学および生活史研究
寄生虫は生物多様性の大きな部分を占めますが,基礎的な研究は遅れており,現在でも新種が次々と発見されています。そこで,淡水の魚類や貝類から得られる寄生虫の記載,分類,生活史の研究を行っています。今までに3種の新種を記載し,8種について幼虫の発見などの新たな生活史情報を報告しています。
寄生虫の写真です。左はヤリタナゴ吸虫Allogenarchopsis problematicaの成虫で,右はそのセルカリア幼生(Cercaria problematica)です。
琵琶湖固有カワニナ類の系統と固有寄生虫の共進化に関する研究
カワニナ類は琵琶湖水系で15種もの固有種に分化しています。そして,琵琶湖内では,この固有カワニナ類に適応進化した固有の寄生虫が進化してきました。この固有カワニナ類と寄生虫が互いにどのような関係を築いてきたのか,遺伝子解析を用いた分子系統学と感染実験によって明らかにしています。
特定外来生物カワヒバリガイを中間宿主とする外来寄生虫コントロール
1990年代に琵琶湖水系に侵入した特定外来生物のカワヒバリガイは,水道管を詰まらせたり,水道水に悪臭を付けることで世界的に悪名高い二枚貝ですが,さらに魚の病気を引き起こす寄生虫を媒介することが明らかになりました。この寄生虫の大発生を引き起こす環境要因を明らかにすることにより,発生を防ぐための人為的コントロールの方法を提言しました。また,とくにカワヒバリガイの密度が高いダム湖で,貝の密度を下げるための方法を検討しました。
外来巻貝コモチカワツボの生態に関する研究
近年,日本全国に増え広がった外来生物コモチカワツボが在来の貝や底生生物に与える影響を明らかにするため,コモチカワツボが生存できる環境条件を野外および実験室で調査しました。コモチカワツボが耐えられる環境には地域によって大きな違いがあり,海外の研究例などが必ずしも参考にならないこと,洪水などの環境変動には弱いことが明らかになりました。
寄生虫を介した食物連鎖と物質循環
寄生虫は小さな生き物ですが,宿主から宿主へと移動する自由生活の段階では,他の生物の餌となり,水域の食物連鎖に一定の貢献をしている可能性があります。ロシア・チャニー湖において,貝から出てくる寄生虫の量を測定し,また昆虫などの小型動物が寄生虫を摂食する割合を調べ,陸水域における物質循環に寄生虫がどの程度関与しているか調べています。